韓国のノーベル賞事情を語る際、最も大きな関心を集めるのが自然科学分野の受賞者がいない問題だ。
韓国には平和賞と文学賞の受賞者がいる一方、物理学賞、化学賞、生理学・医学賞の3分野では、2026年11月現在も韓国出身の受賞者がいない。
この問題は、韓国の科学技術力が低いという単純な話ではない。研究費の規模、基礎研究の歴史、研究者の自由度、研究成果が評価されるまでの時間など、複数の要因が関係している。
理由1:研究費は多いが、長期的な基礎研究に課題韓国の科学技術力を考えるうえで興味深いのが、研究開発投資の規模だ。
韓国科学技術情報通信部と韓国科学技術企画評価院(KISTEP)の2024年研究開発活動調査によると、韓国の研究開発投資額のGDP比は5.13%。イスラエルに次ぐ世界2位だった。
それほど多くの資金を研究開発に投入しているにもかかわらず、自然科学分野のノーベル賞受賞者は生まれていない。
韓国科学技術アカデミーのチョン・ジンホ院長は2026年8月のインタビューで、研究費の総額だけでなく、研究者がどのような環境で、どれほど長く研究に取り組めるかが重要だと指摘した。
ノーベル賞につながる研究は、現在の研究環境だけでなく、20~30年前に形成された研究基盤の成果でもあるという見方だ。
理由2:短期的な成果を求める研究評価制度2026年10月20日、韓国のKAISTで行われた国会監査では、基礎研究をめぐる研究費配分の問題が取り上げられた。
国会議員のチェ・ヒョンドゥ氏が提示した資料によると、韓国国内の研究課題全体に占める長期基礎研究プロジェクトの割合は、わずか1.2%だった。
同氏は、先進国では5~7年間、場合によっては12年間にわたって研究を支援する制度がある一方、韓国では短期的な成果を求める傾向が強いと問題提起した。
研究者が論文数や特許数など、比較的短期間で測定できる成果を優先せざるを得ない環境では、すぐに実用化できるか分からない大胆な研究に取り組みにくくなる。
ノーベル賞級の発見は、研究開始時点で実用性が明確になっているとは限らない。数十年にわたる試行錯誤や、当初は評価されなかった発見が後に科学を大きく変えることもある。
理由3:若手研究者の独立性と研究の自由度もう一つの問題は、研究者が自分の関心に基づいて長期的な研究を続けられるかという点だ。
韓国科学技術アカデミーのチョン院長は、研究費の獲得や申請に追われ、研究そのものに集中しにくいという研究者の声を紹介した。
政府が指定する研究テーマに資金が集中すれば、研究者が本当に解明したい問題と、資金を獲得しやすい研究テーマが一致しない場合もある。
また、研究の失敗を許容できる制度がなければ、前例のないテーマに挑戦する動機も弱くなる。
韓国の課題は、科学者を増やすことや研究費を増額することだけではない。若手研究者が独立して研究テーマを選び、失敗を経験しながら成果を積み上げられる環境を整えることにある。
【韓国と日本を比較】ノーベル賞の受賞者数に大きな差が生まれた背景

韓国のノーベル賞問題を取り上げる際、必ず比較対象になるのが日本だ。
日本は自然科学分野で長年にわたり受賞者を輩出してきた。韓国が科学賞ゼロという状況にあるなか、日本は2025年に生理学・医学賞の坂口志文氏と化学賞の北川進氏が受賞し、さらに2026年には化学賞の硤合憲三氏が受賞した。
日本学術振興会(JSPS)は2026年1月の新年メッセージで、21世紀に入ってからの日本生まれの自然科学分野の受賞者が21人に達したと説明している。2026年の硤合氏の受賞は、この実績に新たな1人を加えるものとなった。
日本と韓国の違いは研究基盤の蓄積にもある日本の優位性を考える際に重要なのが、基礎研究を支える制度の歴史だ。
韓国中央日報が2025年10月に掲載したソウル大学名誉教授の論考では、日本の理化学研究所が1917年に設立された一方、韓国の基礎科学研究院(IBS)は2011年に設立されたことが比較されている。
もちろん、研究機関の設立年だけで科学力を判断することはできない。しかし、長期間にわたる研究者の育成、設備の整備、国際的な研究ネットワークの形成には時間がかかる。
同論考は、ノーベル賞につながる発見が成熟し、国際的に認められるまでには30~40年かかることもあると指摘した。日本が現在受け取っている成果には、過去の研究投資が反映されているという分析だ。
日韓の比較で注意すべき3つのポイント- 受賞者数と科学技術力は同じではない。 ノーベル賞は一国の研究力を測る唯一の指標ではなく、対象分野や選考時期にも左右される。
- 研究成果には時間差がある。 現在の研究費や論文数だけで、将来の受賞者数を予測することはできない。
- 国際的な研究環境も重要。 海外研究者との共同研究、研究者の移動、長期的な研究拠点の形成が成果につながる。
韓国科学技術アカデミーのチョン院長も、ノーベル賞は政策上の短期目標ではなく、長年の研究環境から生まれる結果だという考えを示している。
日本との比較で韓国が学ぶべきなのは、単純な受賞者数の競争ではなく、研究者が長く挑戦できる制度をどう構築するかという点だ。
【2026年最新】韓国のノーベル賞事情と今後の課題
2026年のノーベル賞発表は、韓国の科学界にとっても厳しい結果となった。
特に注目されたのは、日本の硤合憲三氏がフランスのアンリ・B・カガン氏とともに化学賞を受賞したことだ。2人は不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見で評価された。
分子には互いに鏡像関係にある構造が存在するが、生物の体内では特定の形が選択的に使われている。この非対称性がどのように生じるのかという長年の問題に、化学的な説明を与えた研究だった。
日本は2025年に続いて2026年も化学賞の受賞者を輩出した。一方、韓国では自然科学3賞の受賞がなく、研究者の育成と長期的な研究投資をめぐる議論が改めて強まった。
これからの韓国科学界に必要な改革2026年10月の国会監査で示された長期基礎研究の割合1.2%という数字は、韓国の科学政策を考えるうえで象徴的なデータだ。
今後の改革では、少なくとも次の方向性が重要になる。
- 長期研究の拡充:5年、10年単位で研究を継続できる安定的な資金制度を整える。
- 若手研究者の自立:研究テーマの選択や予算執行における自由度を高める。
- 失敗を許容する評価制度:論文数や短期的な成果だけでなく、挑戦的な研究過程も評価する。
- 国際研究ネットワークの強化:海外の研究機関や大学との共同研究を継続的に支援する。
- 研究行政の負担軽減:研究者が書類作成や資金獲得に追われず、実験や分析に集中できる環境を整える。
これらの改革は、ノーベル賞を獲得するためだけのものではない。基礎科学の発展、産業競争力の強化、将来の技術革新を支えるための取り組みでもある。
韓国が科学賞を受賞する時期を正確に予測することはできない。しかし、2026年の議論が研究制度の改善につながれば、将来の韓国科学界にとって意味のある転換点になる可能性がある。
【ノーベル賞と韓国の反応】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:韓国人のノーベル賞受賞者は何人いますか?
A1:2026年11月現在、2人です。2000年のノーベル平和賞を受賞した金大中氏と、2024年のノーベル文学賞を受賞したハン・ガン氏です。
Q2:ハン・ガン氏はなぜノーベル文学賞を受賞したのですか?
A2:歴史的トラウマと人間の命のもろさを描いた、詩的で独創的な散文表現が評価されました。特に『少年が来る』や『別れを告げない』など、韓国現代史の悲劇を題材にした作品が知られています。
Q3:韓国にはノーベル科学賞の受賞者がいますか?
A3:2026年11月現在、物理学賞、化学賞、生理学・医学賞の受賞者はいません。研究費の総額だけでなく、長期的な基礎研究の支援や研究者の自立性が課題として指摘されています。
Q4:韓国ではハン・ガン氏の受賞に反対する人もいたのですか?
A4:はい。一部の保守系団体が2024年10月にスウェーデン大使館前で抗議活動を行いました。ただし、韓国社会全体では祝福や称賛が広がり、書店での販売急増や文学界からの歓迎声明も見られました。
Q5:韓国と日本ではノーベル賞の受賞実績にどれほど差がありますか?
A5:自然科学分野で大きな差があります。日本では2025年に2人、2026年にも1人が自然科学分野で受賞しましたが、韓国出身の自然科学分野の受賞者はまだいません。なお、国別の人数は出生地や国籍などの集計基準によって異なる場合があります。
2026年11月現在、韓国のノーベル賞受賞者は金大中氏とハン・ガン氏の2人だ。
金大中氏は民主主義と人権、南北の和解に向けた取り組みで2000年に平和賞を受賞した。ハン・ガン氏は韓国現代史の悲劇や人間の存在を独自の文学表現で描き、2024年に文学賞を受賞した。
特にハン・ガン氏の受賞は、韓国文学の国際的な評価を大きく高めた出来事だった。韓国国内では歓喜や誇りが広がる一方、作品の歴史認識をめぐる政治的な反発も起きた。こうした反応は、文学と歴史、政治が複雑に結びつく韓国社会の一面を映し出している。
一方、韓国科学界が直面しているのは、研究開発投資の規模とノーベル賞の実績が一致しないという問題だ。GDP比5.13%という高い研究開発投資があっても、長期的な基礎研究や研究者の自立性が十分でなければ、世界を変える発見につながるとは限らない。
【プロの結論】ノーベル賞の人数より、受賞を生み出す社会の仕組みに注目韓国のノーベル賞事情を評価するとき、受賞者が2人しかいないという数字だけに注目するのは不十分だ。
金大中氏の受賞は民主主義と平和への歴史的な取り組みを示し、ハン・ガン氏の受賞は韓国語文学が世界に通用する普遍的な表現力を持つことを証明した。
そして、科学分野の受賞者がいないという課題は、韓国の研究制度が次の世代にどのような環境を提供できるかという問題につながっている。
日本との比較から見えてくるのも、単なる国力の差ではなく、基礎研究を何十年も支え続けてきた制度と環境の違いだ。
韓国の次のノーベル賞を考えるうえで、本当に注目すべきなのは受賞者の人数ではなく、次の金大中氏やハン・ガン氏、そして世界的な科学的発見を生み出す研究者が育つ土壌を作れるかどうかである。