わさおが全国的に知られるようになった背景には、独特の外見だけでは説明できない物語があります。
その中心にいたのが、青森県鰺ヶ沢町でイカ焼き店「きくや商店」を営んでいた菊谷節子さんです。
陸奥新報の連載「わさおの物語」などによると、わさおが保護されたのは2007年の晩秋でした。
1. 2007年、迷い犬として鰺ヶ沢町に現れるわさおが最初に目撃されたのは、鰺ヶ沢町の海の駅わんどの敷地内でした。
当時は生後半年程度と推定され、警戒心が強く、地元住民が餌を与えてもすぐには食べない犬だったといいます。
体が大きく、人にもなかなか懐かなかったため、保健所への連絡を検討する声も出ていました。
そこで名前が挙がったのが、以前から迷い犬や野良犬を保護していた菊谷節子さんでした。
菊谷さんは犬に餌を与え、首輪をつけて保護しました。
当初は「レオ」と名付けられ、飼い主を探す期間を経て、菊谷家の犬になりました。
その後、ブログで紹介された際に「わさお」という呼び名が広まり、全国的な愛称になっていきます。
2. 2008年のブログが人気のきっかけにわさおの知名度を一気に押し上げたのは、旅行者が2008年に公開したブログ記事でした。
独特の顔立ちと、全身を覆う白い長毛が読者の関心を集め、「ブサかわ犬」という呼び方とともに人気が拡大しました。
単に見た目が珍しいだけでなく、迷い犬として保護され、菊谷さんに育てられたという背景も、多くの人の心をつかみました。
その後、わさおはテレビや新聞、観光イベントなどに登場するようになります。
3. わさおの生涯を年表で振り返るわさおの生涯における主な出来事を整理すると、次のようになります。
わさおの生涯・主要年表

2007年・晩秋
青森県鰺ヶ沢町で迷い犬として目撃される。菊谷節子さんに保護され、当初はレオと名付けられる。
2008年
旅行者のブログで紹介され、「ブサかわ犬」として全国的な人気を獲得。
2009年
鰺ヶ沢町から特別住民票が交付される。
2010年
鰺ヶ沢町の特別観光大使に任命される。
2011年
日本ユネスコ協会連盟の特別大使犬に任命。映画『わさお』が3月5日に公開され、JR鰺ヶ沢駅の観光駅長としても活動を始める。
2013年
菊谷さんの長期入院時に毛が抜け落ちたことが報じられる。つばきとの生活も始まる。
2017年11月30日
飼い主の菊谷節子さんが73歳で死去。
2020年6月8日
多臓器不全のため永眠。推定13歳。
2020年以降~2026年
鰺ヶ沢町で追悼活動や記念事業が行われ、銅像などを通じてその存在が受け継がれている。
出典:陸奥新報、日本ユネスコ協会連盟、映画関連資料など。
【わさおの性格と評判】菊谷節子さんとの絆、つばき・ちょめとの生活
わさおは、そのユニークな外見だけでなく、個性的な性格でも知られていました。
ただし、最初から人懐っこい犬だったわけではありません。
1. 最初は警戒心が強く、菊谷さんも手を焼いた保護された当初のわさおは、人に対する警戒心が強く、簡単には懐かなかったと陸奥新報の連載で紹介されています。
菊谷さん自身も、しつけには苦労したといいます。
ところが、一緒に暮らす時間が長くなるにつれ、少しずつ関係が変化していきました。
やがて菊谷さんとわさおは、周囲から一心同体のような存在として見られるようになりました。
この変化は、わさおの生涯を語るうえで欠かせない部分です。
2. 菊谷節子さんが亡くなった後のわさお2017年11月30日、菊谷節子さんは間質性肺炎のため、73歳で亡くなりました。
わさおにとって、長年生活をともにした大切な存在との別れでした。
朝日新聞のペット関連メディア「sippo」の2018年1月の報道では、菊谷さんの死後、わさおが道路を見続けていた様子が紹介されています。
また、2013年に菊谷さんが長期入院した際には、わさおの毛が抜け落ちたことも報じられました。
菊谷さんは、わさおが一匹だけにならないよう、つばきを迎えました。
つばきとの間には娘のちょめも生まれ、わさお一家として親しまれるようになります。
菊谷さんの死後も、周囲の関係者やボランティアが世話を引き継ぎました。
3. 子どもたちにも優しかったわさおわさおの性格を知るうえで印象的なのが、東日本大震災後の被災地訪問です。
日本ユネスコ協会連盟によると、わさおは2011年4月、菊谷節子さんとともに岩手県陸前高田市と宮城県気仙沼市の小中学校を訪問しました。
被災した子どもたちを励まし、学用品を届ける活動にも参加しています。
普段は人との触れ合いを嫌がることもあったわさおですが、このときは子どもたちとの交流におとなしく応じていたと、同連盟は振り返っています。
見た目のユニークさとは対照的な、穏やかな一面が知られるきっかけにもなりました。
4. わさおの性格は長毛と関係がある?ここで注意したいのが、長毛だから性格が穏やか、あるいは人懐っこくなるという科学的な根拠はないことです。
毛質は主に遺伝的な特徴であり、性格は個体の気質や育った環境、社会化、経験などによって異なります。
わさおの人間との関係が深まった背景には、菊谷さんとの長い生活や、周囲の人々との交流がありました。
長毛秋田を迎えたい人も、外見だけで性格を判断せず、個体ごとの気質を確認する必要があります。
【映画『わさお』と2026年現在】亡くなった後も鰺ヶ沢町のシンボルに
わさおの人気を全国規模に広げた出来事の一つが、2011年公開の映画『わさお』です。
また、2026年現在、わさお本人はすでに亡くなっていますが、鰺ヶ沢町では記念の銅像などを通じて、その姿が残されています。
1. 映画『わさお』はどんな作品?映画『わさお』は、2011年3月5日に公開された日本映画です。
日本映画データベース(JFDB)の作品情報によると、監督は錦織良成さん、脚本は小林弘利さん、配給は東映で、上映時間は116分です。
主な出演者は次のとおりです。
- わさお:きくやわさお
- セツ子:薬師丸ひろ子
- 監督:錦織良成
- 脚本:小林弘利
薬師丸ひろ子さんが菊谷節子さんをモデルにしたセツ子を演じ、わさお自身も出演しました。
物語は、青森県鰺ヶ沢町に現れた白い長毛の秋田犬が、イカ焼き店を営むセツ子に引き取られるところから始まります。
わさおの実際の半生を題材にしていますが、作品として再構成されたオリジナルストーリーです。厳密な記録映画ではありません。
2. わさおの死因は多臓器不全わさおは、2020年6月8日午後5時54分、青森県鰺ヶ沢町内の動物病院で亡くなりました。
死因は多臓器不全です。享年は推定13歳でした。
陸奥新報の2020年6月10日の報道によると、わさおは同年4月から足腰が弱り、歩くことが難しくなっていました。
その後、通院と療養を続けていましたが、6月7日には食欲の低下、全身のむくみ、排尿困難などの症状が現れ、健康状態が急激に悪化したとされています。
翌8日に永眠しました。
日本ユネスコ協会連盟も6月10日に公式のお知らせを掲載し、特別大使犬として活動したわさおへの感謝を表明しています。
3. 2026年現在、わさおはどこで偲べる?わさおの姿を今も感じられる場所の一つが、青森県鰺ヶ沢町の「海の駅わんど」です。
ここには、わさおの功績を後世に伝える銅像が設置されています。
JR東日本の観光紹介記事でも、わさおの銅像が海の駅わんどの駐車場内にあることが紹介されています。
また、2023年2月には、銅像に黄色いマフラーが巻かれたという陸奥新報の報道もありました。最後の飼い主となった菊谷忠光さんが、知人から譲り受けたものを銅像に掛けたというエピソードです。
わさおが亡くなった後も、地域の人々がその存在を大切にしていることが伝わります。
4. わさおが鰺ヶ沢町にもたらした経済効果わさおは単なる人気犬ではなく、地域観光のシンボルとしても大きな役割を果たしました。
陸奥新報が2020年10月に掲載した連載記事では、鰺ヶ沢町観光協会の試算として、2008年から3年間で約150億円の経済効果を生み出したと紹介されています。
内訳は次のとおりです。
- メディア露出による広告換算額:約100億円
- 観光収入:約50億円
これは観光協会による推計であり、実際の売上高を積み上げた確定会計額ではありません。
それでも、わさおを目的に町を訪れる人が増え、テレビや新聞、映画を通じて鰺ヶ沢町の名前が広がったことは、地域にとって大きな出来事でした。
わさおは、地域の一匹の犬が観光資源となり、町の知名度向上に貢献した代表的な存在だったのです。
【プロの結論】わさおから分かる長毛秋田の本当の価値
わさおの犬種を正しく理解するためには、3つの視点が欠かせません。
第一に、犬種と毛質を混同しないこと。
わさおは秋田犬であり、長毛秋田やむく毛は被毛の特徴を示す呼称です。独立した犬種ではありません。
第二に、犬種標準と個体の魅力を区別すること。
秋田犬保存会の標準では著しい長毛は失格対象ですが、それは展覧会における理想的な外貌との適合性を判断するための基準です。犬としての価値や、秋田犬としての分類を否定するものではありません。
第三に、外見だけで飼育の適性を判断しないこと。
長毛秋田を家族に迎える場合、被毛の手入れだけでなく、大型犬としての運動量、生活スペース、社会化、健康管理なども考慮する必要があります。
わさおのような姿に憧れて犬を迎える場合も、見た目だけを理由に決めるのではなく、長期的に責任を持って飼育できるかを判断することが大切です。
わさおが多くの人に愛された理由は、長い白い毛だけではありません。迷い犬だった一匹が菊谷節子さんと出会い、地域の人々に支えられ、全国の人々に知られる存在になった。その生涯そのものが、わさおの魅力だったのです。
【わさおの犬種に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:わさおの犬種は何ですか?
A1:秋田犬です。長い被毛を持つ長毛秋田で、愛犬家の間では「むく毛」と呼ばれるタイプです。
Q2:長毛秋田は秋田犬とは別の犬種ですか?
A2:いいえ。長毛秋田は独立した犬種ではなく、秋田犬の被毛の特徴を表す呼び方です。
Q3:わさおの毛が長かった理由は何ですか?
A3:秋田犬の長毛にはFGF5遺伝子の変異が関係することが2025年の研究で示されています。ただし、わさお自身の遺伝子検査結果は公表されていません。
Q4:長毛秋田は秋田犬保存会では失格になりますか?
A4:秋田犬保存会の犬種標準では、著しい長毛は展覧会の失格対象です。ただし、犬種として秋田犬であることとは別の問題です。
Q5:わさおは現在も生きていますか?
A5:いいえ。2020年6月8日に多臓器不全のため亡くなりました。推定13歳でした。
Q6:わさおの飼い主だった菊谷節子さんはどうなりましたか?
A6:2017年11月30日に間質性肺炎のため73歳で亡くなりました。わさおを保護し、全国的な人気犬になるまで育てた人物です。
Q7:わさおに会える場所はありますか?
A7:本人は亡くなっていますが、青森県鰺ヶ沢町の海の駅わんどには銅像があります。2026年現在も、わさおの姿を偲ぶことができる場所です。
Q8:映画『わさお』は実話ですか?
A8:実在したわさおと菊谷節子さんの関係を題材にした作品です。ただし、映画はオリジナルストーリーとして再構成されており、すべてが実際の出来事をそのまま再現したものではありません。
わさおの犬種は秋田犬であり、その特徴的な被毛は「長毛秋田(むく毛)」と呼ばれるタイプでした。
秋田犬保存会の犬種標準では長毛は失格対象ですが、犬種の分類と展覧会の審査基準は別のものです。また、2025年の遺伝子研究によって、秋田犬の長毛に関係するFGF5遺伝子の変異についても科学的な知見が深まりました。
2007年に菊谷節子さんに保護され、2008年のブログをきっかけに全国的な人気者となったわさお。映画出演や観光駅長としての活動を経て、2020年6月8日に多臓器不全で永眠しました。
2026年現在も、鰺ヶ沢町の銅像や地域の記憶のなかに、その姿は残っています。わさおは、長毛秋田という犬の個性を広く知らしめると同時に、一匹の犬と人間、そして地域との絆を象徴する存在となりました。
わさおを知ることは、秋田犬の多様な毛質や犬種保存の考え方を知ることにもつながります。その独特の姿と生涯は、これからも多くの人に語り継がれていくでしょう。